「笑わない」ことが疾患リスクに?!
【時流◆笑い処方のススメ】
福島医大・大平哲也氏の「笑い」に関する真面目な話-Vol. 4

 「笑い」の医学的エビデンスはリウマチやアレルギーなどの自己免疫疾患の他にも、心血管疾患や糖尿病の領域でも集積されるなど「多面的作用」が期待されている。福島県立医科大学疫学講座教授の大平哲也氏らは、「笑い」により疾患が改善するだけでなく、「笑わないこと」が心血管疾患や糖尿病発症に関連するとの国内大規模疫学試験による知見も得つつあるとのことだ。(取材・まとめ:m3.com編集部 坂口恵)

コメディー映画で笑った後の血管拡張能は運動やスタチンに匹敵

 「笑い」で期待できる医学的効果はまだまだあるようだ。米University of Maryland School of MedicineのMichael Miller氏は、健康ボランティア300人を対象にコメディー映画と戦争映画鑑賞時の血管拡張度を計測。コメディー映画を見て笑っている時と戦争映画で恐怖や不安などを感じている時の血管径の差は30-50%に上り、特に、笑った直後に見られた血管径拡大は「有酸素運動やスタチン投与に匹敵する」と評価している(2011年8月欧州心臓病学会のリリース)。
 笑いと血管障害がもたらす心血管疾患発症の関連については、大平氏らも地域住民2万934人を対象とした大規模疫学研究JAGES(Japan Gerontological Evaluation study;日本老年学的評価研究)において東京大学、千葉大学と共同調査を実施。笑う頻度が「ほぼ毎日」の人に比べ、「ほとんどなし」の人では虚血性心疾患リスクが1.21倍、脳卒中リスクは1.60倍有意に上昇していた(J Epidemiol 2016; 26: 546-552)。

B&Bが選ばれた理由

 「笑い」が糖尿病にも抑制的に作用するとの知見も集積しつつある。端緒となる検討を行ったのは、ヒト・レニン遺伝子の解読などに世界で初めて成功した筑波大学名誉教授の村上和雄氏。糖尿病患者19人(平均年齢63.4歳)を対象としたクロスオーバー試験で、1日目は昼食後、糖尿病に関する真面目な講義を40分実施。2日目には当時有名だったベテラン漫才コンビ(B&B)による漫才実演を同じ時間実施。介入後の血糖値を比較したところ、糖尿病に関する講義前後の平均血糖値はそれぞれ151、274mg/dLに対し、漫才前後では178、255mg/dLと、食後の血糖値上昇が対照群に比べ有意に抑制されていた。この論文は米国糖尿病学会誌に掲載された(Diabetes Care 2003; 26: 1651-1652)。

 村上氏らは、「笑い」がインスリンの作用不足による食後高血糖を改善することが示唆されたと結論。機序としては、漫才を聴いて笑っている間の筋肉の動きによりグルコースの利用が増大すること、笑いというポジティブな情動が神経内分泌系に作用し、血糖値の上昇を抑えることなどが推定されると述べている。

 ちなみに大平氏によると、この研究でベテラン漫才コンビに白羽の矢が立った理由の1つは「対照の“糖尿病に関する40分の講義”と同じ時間、漫才が続けられるほどのスキルを持つコンビは数えるほどしかいない」ことだったそうだ。論文では、参加者のほとんどが0-5の「笑いレベル」で4から5と自己評価していたと報告されている。

「笑わない」ことで糖尿病リスクが1.5倍増加

 大平氏らはこの報告を機に「本当に笑いと糖尿病が関係するのか」を検討。ベースライン時に糖尿病のない地域住民4780人を対象とした横断研究を実施。笑う頻度が「ほぼ毎日」の人に比べ、5年の追跡期間における糖尿病発症のリスクは「週1-5回」の人で1.26倍、「月1-3回またはほとんどなし」の人で1.5倍に上昇していたことが分かった(平成25年度厚生労働科学研究報告書)。「これにより、“笑わないこと”が糖尿病のリスクになるのではないかということも分かってきた」。(大平氏)

こぼれ話:技術革新で「爆笑計」も登場!

 ところで、「笑い」の研究において「笑い」をどう測定するのか。以前はビデオモニタリングによる地道な検討が主だったようだが、検討の性質上「被験者が撮られている意識を持ってしまう」ことによるバイアスが生じる恐れがある。また、評価者が「被験者が本当に笑っているのか、それとも咳をしているのか」などをビデオ映像で判定する作業もかなりの重労働だ。

 呼吸モニタリングを用いたエネルギー消費量の評価もあるが、「かなり苦しい検査で、研究に協力してくれた学生が1時間の装着で最後の方は笑って泣いているのか、痛くて泣いているのか分からなくなるほど苦しい」(大平氏)。

 しかし、最近では頸部にBluetoothマイクを装着し、咳や体動に伴う雑音と「爆笑」を高い精度で識別できる「爆笑計」が開発され、「笑い」を簡便かつ被験者の負担が少ない状態で客観的に評価することも可能になっている(平成25年度厚生労働科学研究報告書)。「はっはっはっはの音節が4回続くと“1爆笑”と数える。笑いの回数が多い日で84爆笑を記録することもある」そうだ。

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(写真提供:大阪電気通信大学医療福祉工学部教授 松村 雅史氏)

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