「残業代ゼロ」政策で、うつ病急増?

 2011年、厚生労働省は地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病にこれまでの「4大疾病」(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)に、新たに精神疾患を加え「5大疾病」とした。当時厚労省が調査した患者調査(2008年)によると、精神疾患の患者数は約323万人で、4大疾病で最も患者数が多い糖尿病(約237万人)をすでに大きく上回り、がん(約152万人)の約2倍であった。  うつ病などの精神疾患は90年代の終盤から急増、ここ数年を見ても、増加の一途をたどっている。今や日本中の職場がうつ病など精神疾患によって混乱させられ、疲弊させられている。

<うつ病患者にどう臨むべきかを考えさせている>

 岩波明氏は、昭和大学医学部精神医学講座主任教授である。都立松沢病院、東大病院等で精神科の臨床にたずさわり、2012年から現職に就いている。本書は、序章(それはいつから広がったのか)~疲弊する職場~その病をよく知るために~日本の職場の問題点~職場に戻れる場合、去る場合~過労自殺という最悪のケース~終章(問題の本質はどこにあるのか)の全7章で構成されている。豊富な事例を提供、解を与えるのでなく、読者に、うつ病患者にどう臨むべきかを考えさせている。その一方で、現代の詐病とも言うべき「新型うつ」に対しては、その悪用と社会的損失に対し、歯に衣を着せることなく、厳しく糾弾している。

<日本の独特な社会的、心理的な風土を指摘する>

 日本の職場のどこに問題点があるのか。岩波氏は職場で精神疾患が増加している背景として、日本の独特な社会的、心理的な風土に着目する。第1の特徴は「多様性を認めない」ことであり、第2の特徴は「セカンドチャンスの乏しい」社会ということである。
 終身雇用制度は大企業においても過去のものとなった。そのため、勤労者は現在の仕事に固執し、会社側の要求する過重な業務やサービス残業も受けいれる。このような労働環境こそが、うつ病など精神疾患のリスクファクターになっている。
 うつ病や精神疾患の人物への職場対応は、腫物に触るようにするか、そうでなければ、完全に戦力外として無視することが多い。特に大企業の場合、精神疾患を持つ社員について会社が最も気にするのは、世間的な体裁である。本人の健康についても一定の配慮はするが、人事部にとっては「事故」が起きることが一番怖いのである。

<「新型うつ」は医学的には実態がない概念です>

 うつ病や精神疾患の問題解決を混乱させる詐病「新型うつ」が蔓延している。岩波氏は「“新型うつ”はうつ病ではありません。“新型うつ”と言われている若者たちは、単に生産性が低く充分な能力がない上に、真面目に働く意欲が不十分で、権利ばかり主張する、企業の中における不良資産に過ぎません」と歯に衣を着せず糾弾する。続いて岩波氏は「これはマスコミ用語なので、もしこの病名を用いる精神科医がいるとしたら、まともな医学教育を受けていない輩か、マスコミ受けを狙ったキワモノである」と厳しい。  その背景には、近年「病気」を悪用し、障害年金等を横領するケースが急増していることがある。なぜ、このような「うつ病もどき」の患者たちが堂々と自己主張しているのか。岩波氏は、それを許している社会やマスコミ、そして医者の責任を追及する。

<「残業代ゼロ政策」で、うつ病患者が急増する>

 社会的なセーフティネットが脆弱である日本においては、雇用の不安定さが増し、特に中高年の勤労者に辛い状態を強いており、今現在でも長時間労働が常態化している。  ところが、驚くべきことに、安倍政権は6月24日、一度「過労死促進法案」と言われ撤回された「ホワイトカラー・エグゼンプション」を新成長戦略の目玉として閣議決定した。岩波氏はこのような、言わば「残業代ゼロ政策」を推し進めれば、長時間労働がさらに常態化し、うつ病などの精神疾患を増加させることになると警鐘を鳴らす。
最後に岩波氏は、職場における精神疾患という問題は、一個人における「病気」の問題ではなく、経営方針や人事政策にも関連するレベルの課題であることを指摘する。それは、精神疾患に対する会社の考え方こそが、最終的には患者個人の扱いにも影響してくるからである。安易に「新型うつ」を認めている同じ企業で、その一方で、本当に苦しんでいる「うつ病」社員の解雇が進行するという誠に不可解な現象さえ起こってくる可能性がある。
【三好 老師】

【注】ホワイトカラー・エグゼンプション(ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度)は、いわゆるホワイトカラー労働者(主に事務に従事する人々を指す職種・労働層)に対する労働法上の規制を緩和・適用免除する制度のこと。新成長戦略の目玉として6月に閣議決定された。この制度を導入する背景には、明らかに「残業代を抑える」という意図があり、「労働条件の改悪」という批判も多い。

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。

看護師の書いた糖尿闘病記
夫の糖尿病と闘い、克服していった生々しい記録。勇気が出ます
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