糖尿病網膜症 出にくい自覚症状、定期検査を 
松山・ほりうち眼科クリニック、堀内院長に聞く

毎日新聞2017年8月27日 大阪朝刊 めっちゃ関西

 糖尿病の3大合併症の一つ、糖尿病網膜症は早期に治療を始めることで、失明のリスクを大幅に減らすことができる。日帰りの硝子体手術にも対応し、患者のクオリティー・オブ・ビジョン(視覚の質)を第一に治療を行っている、ほりうち眼科クリニック(松山市柳井町)の堀内良紀院長(42)に糖尿病網膜症の現状を聞いた。

成人の失明原因2位

 --糖尿病網膜症の患者さんはどのようなきっかけで受診されるのですか。

 ◆「糖尿病と診断されたので目は大丈夫かと思って」と、言って受診される患者さんが増えています。
 糖尿病網膜症に対する患者さんの意識が高くなってきたからではないでしょうか。また、内科の先生方から「眼科に診てもらっていますか」と言われて眼科を受診する例も増えています。また、健診の眼底検査で異常があり、受診される患者さんもおられます。
 以前は突然、視界に赤黒い影が広がってきたり、ものがゆがんで見えたり、目が見えにくくなってきたなど症状が表れてから受診される患者さんがほとんどでしたが……。糖尿病網膜症は自覚症状のない早期から治療を始めることが大切なので、早期受診はいい傾向です。

 --基本的なことですが、糖尿病網膜症とはどのような病気なのですか。

 ◆糖尿病の患者さんは高血糖が長期間続くことによって末梢(まっしょう)の細い血管が傷害されてしまいます。網膜には細い血管が張り巡らされており、傷ついた血管は水漏れを起こしたり、詰まったりします。水漏れがひどくなると、網膜の細胞が浮腫を起こし、機能が低下してしまいます。
 また、血管が詰まると、網膜細胞に十分な酸素と栄養が送れなくなり、それらの不足を補うために異常な血管(新生血管)が作られます。新生血管は正常な血管と違い、非常にもろくて、ふとしたきっかけで大出血します。そのようにして網膜が徐々に傷んでいきます。このように糖尿病によって網膜の機能が低下してしまうことを糖尿病網膜症と呼んでいるのです。

 --糖尿病になってからどのくらいで発症するのですか。

 ◆糖尿病の初期は自覚症状がありませんので、いつの間にか糖尿病になっていて、糖尿病網膜症の発見時にはすでに進行していることもあります。ですから、中年以降に多く、50、60代では視覚障害の原因のトップになっています。また、失明にまで至る患者さんは減ったというものの、成人の失明原因の第2位になっています。若いからと言って安心はできません。20代、30代でも発症することは珍しくありません。

 --どうして自覚症状が表れにくいのですか。

 ◆網膜はカメラに例えると、フィルムにあたります。一般に網膜全体でものを見ていると思われがちですが、そうではなく、目に入った光をレンズ(水晶体)で網膜の中心部の黄斑に集めて見ているので、周辺部の網膜に異常があっても自覚しにくいのです。逆に、黄斑部に病変があると、ものがゆがんで見えるなどの症状が早期から出やすいのです。

 --どのようになれば症状が出るのですか。

 ◆新生血管が破れて大きな出血を起こしたときや、黄斑部がむくんだときに、視力の低下の他、ものがゆがんで見える、目の中に蚊のような小さな虫が飛んでいるように見えるなどの症状が表れます。また、白内障を早く発症したり、ドライアイが起こることもあります。糖尿病の人が眼鏡で視力を調整できなくなったら糖尿病の影響の可能性があります。

 --診断はどのようにするのですか。

 ◆眼底カメラで網膜を撮影して出血の有無などを診ます。一般の眼底カメラや診察では網膜の後方部分だけしかわかりません。しかし、糖尿病網膜症は網膜の周辺から起こってくることがほとんどですので、検査用の目薬で瞳孔を開いて周辺部までを詳しく診察します。

レーザーで出血防ぐ

 --治療について教えてください。

 ◆病状がどれくらい進んでいるかによって対応が違います。糖尿病網膜症は大きく3段階に分けることができます。網膜に張り巡らされている細い血管にこぶができ、血管壁が壊れて血液の水分やたんぱく質などの成分が網膜にしみ出してくるのが第1段階の単純網膜症です。さらに進行すると、第2段階に入ります。成分の漏出が増えるだけでなく、血管が詰まって網膜に酸素や栄養が送られなくなります。これが増殖前網膜症です。
 そして、第3段階が増殖網膜症です。栄養不足になった網膜からさまざまな因子が放出され、新生血管が発生します。その新生血管同士をつなぐようにべったりと増殖膜が広がってゆき、やがてこの増殖膜が収縮してけん引性網膜剥離を起こします。
 黄斑部に浮腫が起きると糖尿病黄斑症と呼びます。これはどの段階でも起こる可能性があります。

 --では、単純網膜症の治療は。

 ◆内科での血糖値のコントロールがポイントです。眼科には定期的に検査を受けに来ていただくことになります。血糖値がコントロールされていれば、網膜症の進行は抑えられるので、半年に1回の検査でいいこともあります。内科、眼科、腎臓内科などの受診情報を書き込む糖尿病連携手帳を日本糖尿病協会が作成しています。患者さんがこれを持っておられると、血糖値がうまくコントロールされているかどうかがよくかります。

 --自覚症状がなければ定期的な検査に来なくなる患者さんもおられるのではないですか。

 ◆そうですね。検査では瞳孔を広げる薬を使いますので、検査後はしばらく車の運転ができません。ですから、働き盛りの忙しい患者さんはどうしても検査を中断されがちです。でも、急激に悪くなることもありますし、進行すれば失明に至ることもあります。患者さんには「一生、抑え込んで普通の生活を維持しましょう」と、前向きな気持ちを持っていただくようにしています。

 --目の見え方に影響が出てくるようになったら、どのような治療をするのですか。

 ◆増殖前網膜症では無血管領域にレーザー光線を照射します。レーザー光凝固は外来で点眼麻酔をして行います。10分程度で治療は行えますが、複数回に分けて行う場合も多いです。

 --レーザー治療で視力は回復するのですか。

 ◆レーザー治療は大出血を予防するためのもので、視力回復が目的ではありません。治療後に車を運転していてトンネルに入ったら目が慣れるのに時間がかかるなど暗さに慣れるのに時間がかかることがあります。

 --硝子体手術はどのようなときにするのですか。

 ◆新生血管が破れて、硝子体内に大きな出血を起こしたり、増殖網膜症でけん引性網膜剥離を起こしたりしたケースです。増殖網膜症では張り付いた増殖膜をガムテープを少しずつ丁寧に剥がすような大変な手術となりますし、網膜のダメージも大きいため期待できる視力もかなり厳しくなります。
 硝子体内の出血や増殖膜などを取り除き、その後、目の中から直接レーザー光凝固を行い治療します。外来で日帰り手術ができるケースについてはこのクリニックで行っています。手術時間は20分~1時間程度です。

 --黄斑部の治療は。

 ◆レーザー光凝固で進行を抑えられる局所性浮腫と、そうでないびまん性浮腫があります。びまん性浮腫に対しては炎症を抑えるステロイドを目の周囲や眼内への注射、レーザー光凝固、硝子体手術を組み合わせて治療します。硝子体内に炎症物質をブロックする注射をする治療法もあります。

 --患者さんへのアドバイスを。

 ◆血糖値のコントロールをしっかりすることです。網膜は脳細胞と同じむき出しの神経線維で、死んだ細胞は再生しません。服の布地が傷んでいくようなものです。眼科医にできることは布でいうとほころびを繕うだけで、内科的な治療をしっかりしないといずれ布地がボロボロになります。
 いつまでも快適な生活を送るためにも、眼科での定期的な検査で「視覚の質」を保つようにしましょう。

毎日新聞

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